※練習内容や写真は複数日分のものです

 春の吉報が届いたころ、チームは猛練習期間中。
歓喜に舞い上がったのは1日だけだった。

磯本世代の滑り出しは、良いとは言えないものだった。
秋の県大会前、最後の週末。
岡山学芸館に8−14、翌日済美に7−11と連敗を喫した。
問題は試合内容だ。
学芸館戦は同じ安打数で敗れ、済美戦は6失策で自滅。
頭では「切り替えよう」でも、「最悪なチーム状態だった」と磯本龍志くんは振り返った。
そのまま県大会初戦・興譲館戦を迎え、延長13回2−1で制した。
正直よく勝てたな・・・と。負けも覚悟はした。
でも、それからは興譲館のぶんも負けられないと思った

選手たちにとって、今でも鮮明に残る1戦である。


舩守くんはキャッチボール中も笑みを絶やしません          左から手槌洵志くん、西田群くん、狩屋孝規くんの二遊間

この代から練習着は全員白を着用している。
中京大中京や広陵など、親交のある強豪校の影響だ。
胸には名前と出身中学が書かれ、2年生も初々しく見える。
バラバラだった練習着も個性があって良かったが
今のほうが競争意識と一体感を抱かせる。

ある日の紅白戦。
これがとても刺激的だった。
初回、守備のミスをした選手2人が、即交代させられたのだ。
グラウンドにはピリピリとした緊張感が張り詰める。
チーム内には故障者も数名いて、
センバツのベンチ入りメンバーも決まっていない。
中国大会から多少の入れ替わりが予想されるだけに、し烈な争いは必須。
堅田裕太くんは、1日目はやや肘が下がり不安定な内容だった。
あーやっぱりな」と、原因も分かっている表情。
翌日には「コントロール重視にしたんで」と、会心のピッチングを見せた。
水原浩人くんも「今は体重移動を一番気にしているんです」と研究熱心。
お互いに変化球の握りを教え合うなど、いいライバル関係が築かれている。
ブルペンでは渡辺雄貴くんが変化球の練習中だった。
おお、今のばりええがっ!」と、投げるたびに口から感想がこぼれる。
この1年生トリオは、いつ見ても楽しそうだ。
と言うのも、中国大会の宿舎で1年生が全員同じ部屋だった。
おしゃべりすぎの3人に対して、体調不良気味の福井寛十郎くん、
病み上がりの小倉貴大くんは「もうええって」と、終始苦笑いだったのだ。
打線のほうは4番に座った舩守圭吾くんが3ランホームラン!
年が変わっても勝負強さは健在である。
チームメイトにそのヒミツを探ってみると「たぶん何も考えてないんですよ」と皮肉まじり。
当の本人は、いつもと変わらずニコニコと笑っていた。


藤本貴大くんと宮川貴寛くん(写真右)は、ここ半年で下半身が見違えるほど太くなったよう!

エジソントレーニングは、バランスボールや腕立てなどの、
比較的手軽な種目10個以上を、部員全員でまわしていく。
1種目にかける時間は短く、終えると1周走って、次の種目へ移動。
それをずっと繰り返していく。1周走る時間もリミットが決まっている。
色々なトレーニングができるので、選手に飽きがこないのが良い。
ここでは藤井裕コーチと高森雅人コーチが、目を光らせる。
藤井コーチは選手の背中におんぶしたり、
選手はコーンの外側を走らなければいけないが、わざとコーンを動かしてみたり。
ユーモアさをプラスされ、つらいトレーニングもあっという間に終わる。
選手の額は汗まみれ。とても寒い1日だったが、ノースリーブになる選手も続出だ。
そばめし吐きそう!」、「つぼい焼き(お好み焼き)が出る!!」などと、
お昼ごはんを戻しそうにしている選手もいた・・・。

そんなチームメイトの姿を、愛おしそうに見つめる磯本くん。
戦列離脱中で「僕は木こりになりました。薪割りとコーヒー入れと、
土木関係なら任せてください
」と、動き回っていた。
マネージャーって大変なんですね。自分には無理」と、
ちょっぴり裏方の気持ちがわかったという。


藤井コーチのチェックが入る植田くん(左)&中田将成くんコンビ    笑顔を作る余裕すらない藤田晃貴くん(左)と遠藤蓮くん

体幹トレーニングの練習では、悲鳴をあげる選手が続出。
バレリーナ並みに足を開く選手から
股関節がとっても硬い選手も。
それでもカメラを向けると必死になって笑顔を作ってくる。
これでもだいぶ(足が)開くようになったんですよ〜」とは手槌くん。


体幹中の1年生。手前から小倉くん、顔が見えないのが福井くん、堅田くん、顔だけの水原くん、西田くん(2年)

最後は猛練習恒例のベースランニング。
シングル、二塁打、三塁打、本塁打をそれぞれ走って1セット。
これを10セット行う。
下半身強化はもちろんだが、後半は精神的にも追い込まれる。
しかも、藤井コーチがジロジロと選手の様子をうかがい、
目が合った選手の背中に抱きついてくる。
そして80キロ近くある藤井コーチをおんぶして走っていく。
足元はフラフラ、強烈にしんどい。選手の表情は苦しいような、
でも藤井コーチの行動がおかしくて、笑いながら逃げまわっている。
監督の目は鋭く、少しでも気を抜く選手を見つけると注意が飛ぶ。
そして褒める。「謙太、いいね。今日も引っ張ってくれよ」。
最終走者は一発芸。これは毎年受け継がれている“伝統芸能(?)”だ。


おんぶ被害!?の選手が終わるのを待つ選手たち

この後はみんなでグラウンド整備。
ふとティーネットを見ると、植田弘樹くんが土に自分の名前を書いている。
自主練の場所取りのためだった。
最近みんなやばいですよ。意識高いんです」(植田くん)
猛練習で疲れはピークのはず。
それでも、遅くまで自主練に励む選手が多い。
しかも特定選手だけではない。
びっくりするくらい、よく練習するんよ」と、江浦監督も目を丸くする。
ティーをやっていた山口凌くんと横木暉大くんが話しかけてきた。
打っているところを写真に撮ってほしいというのだ。
やっぱり体が開くよなあ。もっと手前なんかなあ?
2人で試行錯誤しながら理想のフォームを探していた。


笑っている狩屋くんを抜こうとしている欣宏くん

磯本世代、チームカラーがつかめない。
個性が強いわけでもないし、ものすごく真面目でもない。
彼らが下級生だったころは、先輩たちから「気が利かない」と怒られていて、
かなりのマイペース軍団だった。
確かに、キャプテン磯本くんは、少しのんびりしている。
ただ、関西のキャプテンというと後輩を寄せ付けないオーラがあるが
ある1年生が「いい先輩ですか?う〜ん、僕は磯本さんと慎之介さん」と言うほど、
親しみやすい雰囲気を持っている。
ベーランのゴール地点で、選手同士がハイタッチをしている。
いつからだろうか、1年生が前に出て先輩にハイタッチをするようになったのは・・・。
一昔前にあった厳しいルールは無くなってきている。
関西らしさがないというOBもいるかもしれない。
だが、その体質は今の時代の流れには合わないだろう。
そして、副キャプテンの謙太くんがプレーで、植田くんが態度と言葉で引っ張る。
圧倒的な実力を持つスターは不在。
バランスのいいチームが、気がつくと出来上がっていたのだった。

 

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