2006年3月31日、毎日新聞スポーツ面より。
【第78回センバツ高校野球、早稲田実−関西(再試合)】
早稲田実と関西の再戦。
1点リードの9回裏、右前打を後逸して逆転を許した関西・熊代は
ぼうぜんとしてフェンス際に座り込んだ。
その裏、熊代は1死二塁で打席に立ち、捕耶飛に倒れた。
試合後、ある記者が江浦監督に質問した。
「ショックで泣いている選手を打席に送って、力を出し切れると思ったか。
逆転しようと思うなら代えるべきではなかったか」
江浦監督は一瞬考え込み、答えた。
「考えませんでした。彼を信頼しているから1番打者を任せています」
熊代が泣きじゃくっているのは知っていたという。
「月並みですが、『泣くな、打って取り返してこい』と言いました」
そして続けた。
「あの場面で彼を引っ込める監督がいるでしょうか」
確かに、ヒットを打って取り返すことはできなかった。
しかし、もし代打を送って再逆転していたとしても、チームはその勝利を心の底から喜んだだろうか。
9回の守備を終え、熊代を抱きかかえるようにして
ベンチに連れ戻った中堅手の上田は言った。
「あの守りは、1点もやるまいとする積極的なプレーだった。
たまたまエラーになっただけ。だれも彼を責めません」
熊代が倒れた後、徳岡が四球を選び、上田も内野安打で続いて、2死満塁まで詰め寄っている。
敗れはしたが、関西は勝利にも代え難い何かを手にした。